【精油とは】
精油は植物の花、葉、果皮、樹皮、根、種子、樹脂などから抽出した天然の素材です。有効成分を高濃度に含有した揮発性の芳香物質です。精油は、各植物によって特有の香りと機能を持ち、アロマテラピーの基本となるものです。(協会による精油の定義)
1 天然の素材
精油は植物から抽出した100%天然のものです(=これをピュアナチュラルといいます)。”アロマオイル”などと呼ばれる合成の芳香剤とは全く違います。見分ける方法は、精油であれば学名、抽出法、抽出部位、産地が明記されています。
2 精油は油ではありません
精油は油=「油脂」ではありません。
⇒油脂=脂肪酸とグリセリン
精油は植物が作り出した二次代謝物で、有機化合物が集まって出来たもの。
3 精油の特徴
・芳香性
・揮発性→空気中に蒸発する
・親油性・脂溶性→水より軽く、水には溶けにくいが油にはよく溶ける
4 分泌腺
精油は葉の表面近くや果皮の近くにある特殊な細胞で作られています。その細胞の集まっているところから精油が取れるので、抽出部位が植物ごとに異なるのです。
5 精油の分泌理由
⑴誘因作用
受粉をしたり、種子を遠くへ運んでもらうために虫や鳥などの有益な生物を引き寄せる働きのこと
⑵忌避作用
植物の香りによって虫や鳥を避け、苦みによって植物が食べられることを防ぐ働きのこと
⑶抗菌作用・抗真菌作用
忌避作用の一つで、有害な菌類やカビが増殖するのを防ぐ働きのこと
⑷冷却作用
植物が強い太陽の熱から身を守るために芳香物質の一部を蒸発させ、自らを冷却させる働きのこと
⑸その他には
植物内でのホルモンのような働き
植物内で不要になった老廃物である
種子の発芽や成長を止める
6 精油製造法
⑴水蒸気蒸留法
蒸留釜に芳香原料(花や葉)を詰めて釜の底から水蒸気を吹き込んで原料を蒸す「Steam distillation」と、蒸留釜の中で芳香原料を水に浸したあと、下から熱して精油の溶けた水を水蒸気として収集する「Water distillation」があるが、前者が主流です。
原料に含まれる精油は揮発して水蒸気とともに立ち上り、これを水蒸気管で集めて冷却槽で冷やすと精油を含んだ蒸留水「フローラルウォーター」を採ることが出来ます。最後に蒸留水の表面に浮いた精油をフローレンタイン瓶(分離器)で分離します。
多くの精油がこの方法で製造されますが、熱と水に弱い成分を有する植物はこの方法に適しません(本来の香りが失われてしまうため)。
フローラルウォーター(芳香蒸留水)はこの製法の精油の副産物です。水溶性(↔反対は脂溶性)の成分が溶け込んでいます。したがって、精油とフローラルウォーターとでは、その成分や比率に若干の違いがあります。
⑵圧搾法
柑橘系の果皮精油を抽出する方法。圧力をかけるだけで簡単に抽出できるため、古くから手作業で採油されてきました。20世紀初頭は果実を二つ割りにして果肉をのぞいた果皮をレモンジューサーのような圧搾機で絞って精油を採っていました。圧力をかける円盤にスポンジを取り付けていたところからこの方法はスポンジ法と呼ばれていました。
現在では果実を機械のローラーで丸ごと絞った後、遠心法で果皮精油と果汁(ジュース)を分離して低温で精油を得る方法がとられています。
低温で圧搾すると、熱によって精油成分がほとんど変化しないので、自然のままの香りが得られます。圧力をかける時に発生する熱から香気成分を守るために冷却しながら圧搾して得られた精油を特に「コールドプレス」と呼びます。ただし、不純物(搾りかすなど)が混入することもあり、精油自体の変化(劣化)が早いことに注意が必要です。
⑶油脂吸着法
主にローズやジャスミンなどの花の芳香成分を得るために古くから行われていた方法です。
温浸法(マセレーション)
60〜70℃に加熱した油脂に花を浸す
冷浸法(アンフルラージュ)
常温で固形の油脂の上に花を並べる
油脂は精製して無臭にした牛脂(ヘット)や豚脂(ラード)、オリーブオイルを使います。油脂が芳香成分を吸着しきれなくなり、飽和状態になったものをポマードといいます。これをエチルアルコール処理しポマードから脂をのぞき、エチルアルコールも除去して得られた精油を「アブソリュート」といいます。コストが高く、現在ではほとんど行われていません。
⑷揮発性有機溶剤抽出法
熱に弱い花などの精油を抽出するのに使われる方法です。溶出釜でヘキサンなどの揮発性有機溶剤に芳香原料(花)を漬け込み、精油成分を溶剤に吸着させます。次に減圧揮発器で溶剤を揮発させると、精油成分を含んだ固形ワックス「コンクリート」がとれます。このコンクリートをエタノールで溶いて、精油成分をエタノールに移行した後、−20〜ー30℃で冷却してワックスを分離、最後にエタノールを除去して精油を採ります。この方法で得られた精油を「アブソリュート」といいます(樹脂から取れたものは「レジノイド」。香りの保留剤としても使われる)。
ローズやジャスミンなど、花の香りを得るのには適した方法ですが、 溶剤が残留していることもあるため、 「アブソリュート」と「精油」を区別する考え方もあります。 また、トリートメント(肌への塗布)にはあまりむいていません。
⑸超臨界流体抽出法
液化二酸化炭素ガスを溶剤として用いる方法です。気体に高圧を加えると、気体と液体の中間の流体状態(=超臨界状態)になり、植物の芳香成分は二酸化炭素に吸着されます。そして圧力を元に戻すと、二酸化炭素が再び気化して芳香成分だけが残ります。この方法で得られた精油を「エキストラクト」といいます。
常温で行うため、その製造過程で芳香成分が変化せず植物そのものに近い香りを得ることができます。抽出量も多く、二酸化炭素を使うので安全性が高いというメリットもありますが、高価な装置が必要となるため、あまり一般的ではありません。
★以前はこの方法で得られた精油をアブソリュートと呼んでいましたが、2011年6月改訂版よりエキストラクトと修正されました。
7 精油の経路
精油が人の体と心に作用する経路は、大きく分けて2つあります。
⑴感覚器(嗅覚)から脳へ伝わる経路
精油成分は揮発性が高いので、空気中にどんどん蒸発していきます。その空気を吸い込むことで鼻の奥にある嗅細胞に届きます。その刺激が電気信号となり大脳辺縁系に到達し「におい」として認識されます。
⇒詳しい経路は1級で学習します。
⑵血液循環により全身に伝わる経路(入り口は3つ)
・呼吸器から
鼻から吸い込んだ精油は、鼻粘膜と肺胞(肺の一番奥にある組織)の血管から吸収されます。
・皮膚から
精油を入れたトリートメントオイルを皮膚に塗ることにより、皮膚内の毛細血管から吸収されます。
・消化器から
精油成分を内服することにより(経口摂取)、小腸などの消化器粘膜から血管に入ります。
★消化器粘膜への刺激、他の経路よりも吸収率が高いこと、また、肝臓への負担が大きいことから、経口摂取はAEAJでは勧めていない方法です。
8 精油の作用
○心身への作用
・鎮静作用 神経系・興奮を鎮める。心と体をリラックスさせる。
オレンジスイート、ラベンダー。
・鎮痛作用 痛みを和らげる。
ゼラニウム、ペパーミント、ユーカリ、ラベンダー。
・鎮痙作用 筋肉の緊張を和らげる。
オレンジスイート、ペパーミント、ユーカリ、
ラベンダー、ローズマリー。
・消化・食欲増進作用 オレンジスイート、グレープフルーツ。
・ホルモン調節作用 ホルモンの分泌を調節する。
カモミール、ラベンダー、ローズマリー。
・刺激作用 心や体の活動を刺激し高める。
グレープフルーツ、ジュニパー、ティートゥリー、
ユーカリ、ローズマリー。
・強壮作用 体の各部や全身の働きを活性化し強化させる。
オレンジスイート、ジュニパー、ゼラニウム、
レモン、ローズマリー。
・免疫賦活作用 免疫の働きを強め、活性化する。
ティートゥリー、ユーカリ、ラベンダー。
・利尿作用 尿の排泄を促進する。
グレープフルーツ、ジュニパー。
○細菌やウィルス、虫などに対する作用
・殺菌作用 バクテリアなどの菌を殺す作用
・抗菌作用 細菌の増殖を抑える作用
・抗真菌作用 真菌(カビ)の増殖を抑える作用
・抗ウィルス作用 ウィルスの増殖を抑える作用
・殺虫・虫除け作用 虫を殺したり、よけたりする作用